なぜ、西成特区を打ち出したか
閑話休題。
橋下市長が、なぜ、西成特区を持ち出したか、どうして西成区(あいりん地域)へ注目し、特区という手法を打ち出したかを探る。
まず、議会の議事録によって、平松市長と橋下府知事とでは、あいりん地域への認識がどうちがっていたか、探ってみる。
基礎自治体である大阪市の市長としては、「市政にとって重要課題、先頭に立って全市を挙げて、行政と地域の住民との協働で取り組んで行かなければならない」というのが基本で、「国や府の役割分担も求めて行く」というのが、市会答弁から読み取れる原則的立場といえよう。(参考2参照)
個人的な体験として、数年にわたり「あいりん対策」について行政交渉を重ねた時期があるが、あるとき行政担当者が「あいりん対策、あいりん対策というが、私たちはあいりん対策だけの仕事をしているわけではない。オール大阪の中で仕事をしている。大阪市は例えれば大きなタンカーで、舵を取っても、実際に船体の向きが変わるのには時間がかかる」と発言した。まあ、実務的にはそうだろうとは、思ったが・・・。
広域行政を担う大阪府知事としては、まず、府が実施している労働関係についての施策との関連であいりん問題を認識、第2に、参考情報として得ている地域の動きを認識、そして、弁護士時代に仕事で出入りした個人的体験で厳し環境を認識している。
但し、具体的な取り組み(地域の人声を聞くなど)になると、基礎自治体との分担問題もあり、広域行政として関われるしつらえができてからでないと実現できないということになる。
長く、あいりん対策の分担は、市=民生・福祉、府=労働と分けられており、事業実施でお金が絡むときは、府市折半というのが府市間の取り決めになっていた。広域行政を担う府としては、あいりん対策の根幹は基礎自治体が担う民生・福祉対策だとする考え方を持っている。(参考3参照)
すべての府会議事録に目を通して、橋下知事の発言をチェックしたわけではないので、確定的にはいえないが、知事は市長ほどには、あいりん地区対策に力を注いでいた、あるいは注目していたとは思えない。
あくまでも、大阪市内の一地区であり、大阪市の対策が主となるべきところとの認識であったろう。これは、長く大阪府行政マンの認識であり、知事はそれをオウム返ししただけともいえる。
その大阪府知事が大阪市長となった。大阪市長となれば、知事のように、距離を置いた発言をすることはできない。
あいりん地域には、1961年第1次釜ヶ崎暴動以降の経過があるので、市長としては、「先頭に立って対策に取り組む」といわざるを得ない。これは平松市長でも、橋下市長でも同じ事だ。
しかし、特別対策が一段落した1970年以降は、やや特別ではあるけれども、あくまでも西成区の一地域、そうそう特別扱いはできないというのが、大阪市行政マンの認識であるので、市長が具体的事業で踏み込むことができにくい環境になっている。(参考4参照)
では、特区構想は、「大阪市行政マンの認識」を超えた、橋下市長のオリジナルだったのだろうか。
参考2:大阪市長の認識を見るために参考とした大阪市会での答弁
【2008(平成20)年03月11日 市会3月定例会常任委員会(民生保健・通常予算)】
西川ひろじ委員からの質問、ホームレス問題、あいりん問題に関する国、大阪府の責任について問われた、平松市長の答弁。
ホームレス問題及びあいりん問題の解決というのは、市政にとっての重要課題であり、私が先頭に立って全市を挙げて取り組んでいかなければならない課題であるという認識を持っております。しかしながら、ホームレス問題及びあいりん問題は、委員御指摘のとおり、さまざまな社会的、経済的要因によるものであり、本市だけで解決し得る問題ではなく、国及び大阪府が果たすべき責任、役割というものは大きいものがあるということも認識しております。
大阪府が従来から果たしてこられた役割につきましては、本格予算に位置づけて、引き続きその責任を果たしていただかなければなりません。それに加えて、労働行政を初め労働課題から生じる諸課題に対しましても、これまで以上に大阪府としての役割を果たしていただきたいというふうにも考えております。
ホームレス問題、あいりん問題の解決には国がその役割を十分に果たしていくことが重要であることから、大阪府とも連携を図り、あらゆる機会をとらえて国に要望し、問題の解決に向けて引き続き取り組んでまいりたい
【2009(平成21)年03月13日 市会3月定例会常任委員会(建設港湾・通常予算)】
尾上康雄委員から、「あいりん地域全体のまちづくりについて、地域の市民と懇談会を設けるなど、より一層市民協働の観点で取り組む必要が私はあると思う」との問いかけに、平松市長は
『あいりん対策につきましては、本市の重点課題と位置づけて、毎年国に対しても、あいりん地域におけます各種事業や環境改善を目指したまちづくりに対する支援について要望を行ってきております。
これまで、本市では関係各局によるあいりん対策連絡会議を設置しまして、環境の改善あるいは福祉の向上、そういった観点で種々の対策を検討し、そして実施してきております。
現在も、本市のまちづくり活動支援制度を活用しまして、地域住民の方々が自主的な活動を行うなど、行政と住民が協力しているところ−、今後、市民協働の観点をそれに加え、一層、行政と住民が連携を深め、総合的なまちづくりに向けて地道な取り組みを重ねていく必要があると考えております。』
posted by kamamat at 18:30|
西成特区構想